このショートストーリーは、三井ホーム株式会社様発行の季刊誌「RFAM」vol.28 に掲載されたものです。

● クライアント;株式会社LIXIL様  ● PR製品;アイランド型システムキッチン

​〝ばっぷサラダ〟の作り方 ◉ ばっぷ

 友人から電話があって、家の中をリフォームしたから晩メシを喰いに来いと言う。彼の家には何かにつけお邪魔しているから中の様子は熟知している。特にキッチンは。

 

 4ドアの大型冷蔵庫があって、野菜室の容量は二つのキャベツを丸ごと入れられるから、九〇点。ステンレス製のシンクはそこそこ広いが、料理スペースは水切りカゴを置いているのでかなり狭い。俎板を置くと手前に迫り出しカットした野菜が床に転がる。三〇点。包丁を仕舞っておくポケットはシンク下の、観音開きの扉の内側に付けられている。以前、私がその扉を開けたとき角に膝をぶつけたことがあるから、一〇点。

 

 友人宅に着くと細君が笑顔で迎え入れてくれた。建坪は私の家と同じくらいだから、リフォームしたところでキッチンの広さなど変わっていないだろうと思っていたのだが、「キッチンはそっち」と彼女に背中を押されドアを開けたら腰が抜けそうになった。

 想像を遥かに超えた広さ。というか、ここは本当にキッチンなのか? ダイニングではないのか?「嘘だろ?」と絶句して眩暈に襲われた。

「一階は部屋の壁を取り払ったんだ。娘も結婚したし、料理しながらでも一緒に飲みたいって、女房が言うからさ」

 満面に笑みを浮かべる彼に軽い嫉妬を覚え、私は手土産のワインを無言で預けた。

 その広い空間で一番目を引くのは、ほぼ中央にデンと据えられたキッチンユニット。まるで大海に浮かぶ火山島みたいだ。しかも、まさかのセラミック製。熱い鍋を直接置くことができるし、汚れ難くて傷もつき難い。シンクはぐんと広くなって二段レーンが付いている。これなら切った野菜が床に転がり落ちる確率もかなり低い。蛇口に手を近づけるとセンサーが働いて水が出た。油の着いた手で水栓を捻らずに済むわけだ。「包丁は?」とシンク下に視線を落とせば、あの忌まわしい観音開きの扉がない。替わりに取手らしきものを引っ張ってみたら、上部だけがぱくりと口を開けるように開いて、その中に料理器具が整然と格納されていた……。

「ばっぷさん、いつものサラダ、作ってよ」

 不敵な笑みを浮かべ私の様子を観察していた細君の、その一言が闘争心に火を点けた。そう、料理は闘いだ。包丁を振るいつつ、同時に脳をフル回転させ短時間で決着をつけるのだ。

 

 早速、他人様の家の冷蔵庫を勝手に開け、キャベツ、ピーマン、玉葱、キュウリ、トマト、ニンニク、鶏のササミを取り出した。

 キャベツとキュウリは千切りにして、下のレーンに置いたボールに入れていく。ピーマンと玉葱はスライスし、トマトは一センチ角にカットしてボールに落とす。茹でておいた鶏のササミは指で裂き、ニンニクはすり卸して入れる。そこに自然塩、胡椒、オリーブオイル、ワインビネガー、醤油を適当に。具材を掻き混ぜ味見して、塩加減を微調整。レモンがあれば半身を絞って最後にひと振り。あとはボールごとテーブルに置いて、各自が食べたい量だけ自分の皿に盛ればいい。

 

 すでにお察しのことと思うが、「今日の出来は●●点」なんて野暮なことは言わない。味の良し悪しはキッチンの使い勝手と友人たちとの会話次第。なぜなら、楽しいコミュニケーションがなによりのご馳走だから。

​©︎ BAP 2017